7時30分起床。16時出発のバスでマンダレーに向かう予定なので、ヤンゴンの残りの観光スポットを駆け足で見て回るつもりで、少しだけ早起きをしてみた。前日一緒だった伊藤さんは、この日の昼頃のバスで僕とは違う方面に向かうとのことなので、朝食を一緒にとって、お互いの連絡先を交換して別れた。
この日のまず最初の目的地は、ヤンゴン観光の最大の見所と言っていいシュエダゴォンパゴダ。このパゴダの歴史は2,500年以上も昔に遡ると言われている。タポゥタとパリッカという兄弟の商人が、インドで仏陀と出会って8本の聖髪をもらい受け、紀元前585年にこの地に奉納したのが起源。それ以降の拡張度重なる拡張工事の末、大小合わせて60余りの塔に囲まれた大パゴダとなったとのことだ。眉唾な話ではあるけれど、実際、このパゴダは筆舌に尽くし難いほどに立派。昨日訪れたダウンタウンの中心にあるスーレーパゴダの華美さにもかなり驚いたけれど、それが霞んでしまうほどだ。巨大さ、優美さに圧倒される。入り口から104段の階段を登って現れる中心部の塔は、高さ99.4m、基底部の周囲433m、使われている金箔の数だけでも8,688枚。塔の最頂部には、1個76カラットのダイヤモンドをはじめ、総計5,451個のダイヤモンドと1,383個のルビー、他にも翡翠等の宝石が散りばめられているという。中心の塔の周りには、幾重にも小さい塔が取り囲んでおり、全体で壮大な建造物となっているのだった。ところで、このパゴダには観光客がとても多かったけれど、驚くことに、観光客よりも地元の参拝者の方が多かった。確実に観光客が訪問者の大半を占めている、明治神宮や浅草寺といった日本の有名仏閣寺社とは大違い。この国で、仏教がいかに人々の心の奥底に根付いているかを窺い知ることができる。
シュエダゴォンパゴダで結構時間を費やして、出た頃には既に昼近くになっていた。丁度空腹になっていたので、ダウンタウンの中心に戻ってガイドブックに載っている「トリプルナイン・シャンヌードル」というレストランに向かうことにした。「シャン」というのはミャンマーの一民族名。ミャンマー東部、タイ、ラオスと国境を接したシャン高原の主要民族で、タイ人やラオス人と同系だとか。その特産のシャンヌードルを供してくれる店なのだけれど、これがとても美味しい。鶏がらの出ダシが良く取れているスープに、細麺がベストマッチ。400チャット(=45円)でこの味には大満足で、スープまで完食。昨日のランチもこれを食べたら良かったとかなり後悔した。
ランチ後ダウンタウンをブラブラしていると、1人の少年に声を掛けられた。ミャンマーに修行に来ている日本人僧に教えてもらったと言っており、日本語がとても達者だ。どこの国に行っても、日本人観光客に上手な日本語で話し掛けて金儲けを企む現地人はいるけれど、ミャンマーも例外ではないようだ。ただ他の国と違っているのは、あからさまに何かを売り付けようとするのではなく、日常会話を展開してくる点。それほど急いでもなかったので、しばらく彼の相手をしてみることにした。10分程度他愛もない会話を歩きながら交わしていると、ミャンマー男性の普段着である「ロンヂー」(=綿布を筒状にしたもので、ズボンのようにはく)を買わないかと持ち掛けてきた。少々高値で売ってくるのは分かっていたけれど、せっかくミャンマーに来たのだからその格好で観光してみるのもいいかなと思って承諾。彼の母親が経営するという店に行って、黒地に赤のチェック模様が入ったものを4US$で購入した。すぐに路上ではいてみると、道行く人々の注目を一斉に浴びた。しかもみんなクスクスと笑っている。外国人観光客がロンヂーを着ているのがめずらのしいのか、それともそんなに似合っていないのか、少し恥ずかしかったけれど、せっかく買ったのだからと思ってはき続けた。
あっさりとロンヂーを買ったので僕を上客と踏んだのだろうか、彼は続いて水中寺院に行くことを勧めてきた。後で聞いた話だけれど、ミャンマーでは、英語や日本語を話すことができる現地人が観光客を誘ってタクシーを利用すると、そのタクシーの運転手から運賃の数十パーセントをマージンとしてキックバックしてもらえるらしい。ビルマ語ではなく観光客にも通じる言葉で巧みに誘った結果としてタクシーを利用することになったのであり、当然の権利だということだ。理屈は捏ねようだと思った。バスの出発までまだ少し余裕があったので、誘いに乗ることにした。ガイド料、タクシー運賃等込みで15US$支払うことを約束したけれど、一体この内いくら少年の手に渡るのだろう。水中寺院イェレーパゴダは、チャウタンというヤンゴンからタクシーで片道40分程かかる村にある。タクシーをかっ飛ばして到着、水中寺院を見てみると、その名の通りヤンゴン川の中州を丸ごと利用して建てられており、まるで水中に浮かんでいるようだ。対岸から船に乗って渡ってみると、内部は特に他のパゴダとは変わりないけれど、四方川に囲まれているこの物珍しい寺院を見学して、観光気分に浸った。1時間程度滞在してヤンゴンに引き返し、少年と別れた。
ヤンゴンに戻るとすぐに、16時出発のバスに間に合うようにダウンタウンから郊外の長距離バスターミナルに向かう。タクシーで約40分。到着すると既に大勢の地元の人でごった返しており、バスも多数待ち構えていた。街中を走っている車と同様で、バスも全て日本の中古バス。中でも僕が乗ることになったマンダレー行きのバスは「大成高等学校」と車体に印字されており、大阪の高校でかつて利用されていたことが明らかだった。16時になって乗車すると、バスの内部の惨状に打ちのめされる。前日ホテルでバスを予約する際に確認したエアコンはどうやら故障しているらしく社内は猛暑、リクライニングシートは調節がバカになっているらしく、自動的にリクライニングしたっきり元のポジションには戻らない。このバス完全に中古不良車、日本に引き取り手がいなくてミャンマーに輸出されたに違いない。これからの16時間を想像し絶望感に打ちひしがれたけれど、乗り掛かったというよりも既に乗ってしまった船なので諦めて「自動」リクライニングシートに身を沈めた。約3時間走ると休憩所に停まった。日本でいうサービスエリアのようなもので、軽食、ドリンクを取ることができて、トイレもある。丁度夕食の時間だったので、入り口付近で女の子が作っているナンティという麺料理をオーダー。何とも形容しがたい味だったけど、ほどよい酸味が空腹に心地良く、ほんの数分で完食してしまった。まだ絶品という料理は巡り会っていないけれど、ここ何食かなかなか美味しいミャンマー料理に当たり、少しずつ評価は上がっている。こうして休憩後満腹で車内に戻り、乗車直後の不機嫌は少しおさまったしさてと一眠りするかと思ったのだけれど、そうは都合良くいかなかいことがすぐに分かった。まず、ずっとミャンマー音楽のビデオが信じられないような大音量で上映されている。地元の人たちが時々節に合わせて口ずさんでいるので、きっと有名な、いわゆるミャンマー・ポップスなんだろう。これが、朝まで流され続けた。そして、いつの間にか車内が極寒となっている。エアコンは故障していたのではなかったのだ。乗車直後は猛暑だったのに、気が付くと現地の人たちは皆コートを羽織っている。僕も震えるまでになったので、バックパックから日本出国時に着ていたセーターを取り出して、着用。まさかミャンマーで着ることになるとは思わなかった。エアコンの温度調節が全くできないほどに、このバスはポンコツらしい。こういった中で頑張って頑張ってウトウトしていると、恐らく何時間か走った後で、休憩所も何もない場所でバスが突然停車して起こされた。みんながぞろぞろと降り始めたので、訳も分からず降りたのだけれど、すぐに事態を把握することができた。前タイヤを男性が何人も取り囲んでいる。スパナを持っている人、ねじ回しを持っている人、それらを照らす懐中電灯を持っている人、一見して故障したことが明らかだ。車体後方には、エンジンに水を掛けて冷やしている人もいる。このまま故障して動かなかったら一体どうなるのだろう、他のバスが僕たちをピックアップしに来るのか、鉄道か何か他の交通機関に乗り換えるのか、最寄の町まで歩くのか、不安が頭を駆け巡った。この時に気が付いたのだけれど、このバスには僕以外に外国人が1人も乗っていない。不安や怒りを共有をすることもできずにフラストレーションは溜まる一方。こういう時に一人旅で、かつ周りに旅行者が1人もいなかったら何となく心細くなるものだ。1時間程度待っていると故障は直ったようで乗車し直したけれど、それ以降寝ることもできず、ミャンマー・ポップスに包まれながら朝まで不愉快な気分で過ごした。二度とミャンマーでバスに乗るものかと強く心に誓ったのだった。
赤チェックのロンヂーですか?はいてるところを見てみたいです。
セーラームーンのスーパーファミコンのゲームの中でセーラーマーズがミャンマーの寺院に行ったんですよ。(トリビア)笑。
投稿情報: ゆみまる | 2005-02-13 20:25